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桜木町 [エッセイ]

 1999年の年末、横浜の桜木町に住んでいたことがある。当時マンションの住替えを行っていて、新居への入居が12月末なのに、売却したマンションを10月末に引き渡さないとならなくなった。2ヶ月だと賃貸を借りるのも難しい。仕方なく、桜木町のウィークリーマンションを借りた。ほとんどの家財道具はトランクルームに預けた。車は会社に事情を説明して、会社の駐車場に置かせてもらうことにした。

 最寄り駅は桜木町だが、住所は確か花咲町だった。ブリーズベイホテルを通り過ぎ、大岡川に差し掛かる手前に、そのウィークリーマンションはあった。間口が狭く、奥行の長い、うなぎの寝床のような9階建ての建屋だった。借りたのは9階の部屋だったと思う。折り畳みベッドを畳まないと食事も出来ないような、狭い部屋だった。そこに最小限の家財道具を持ち込んで、かみさんと二人で2ヶ月ほど暮らした。

 薄いマッチ箱を縦に立てたようなそのひょろ長い建屋は、風が吹くと、揺れた。冬の強い風が吹くと、倒壊するのではと思うくらい大きく揺れた。そんな経験をしたのは、後にも先にもこの時だけだ。今Google Earthで調べてもその界隈にそれらしい建屋はないので、既に取り壊されたのかもしれない。

 その他のことは、今となっては断片的にしか覚えていない。夜はテレビでバレーボールのワールドカップをよく見たこと、服がなくて伊勢佐木町のGAPでパーカーなど買ったこと、野毛やみなとみらいなど美味しい食事処満載の地にいながら、12月に体調を崩し、専ら近くのうどん屋で飯を食ったこと。

 音楽は、滞在中に買ったGLAYのベスト盤とDavid BowieのHoursのCDをラジカセで繰り返し聴いていた。他にCDを持っていなかったので、それらを聴くしかなかった。HoursはDavid Bowieの中では有名なアルバムではないが、1曲目のThursday's Childが好きで、その曲を良く聴いていた。

 この間iPodで自分の作ったプレイリストをランダムに聴いていると、偶然Thursday's Childがかかった。その曲が長らく忘れていた2ヶ月間の特殊な暮らしを想い出させ、それを記しておきたくなった。好きな曲には、当時の記憶を鮮やかに呼び覚ますような、そんなトリガーが潜んでいる。

2019年10月 記
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