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NAIMA [エッセイ]

 若いころ、特に池袋でジャズオルガンを習っていた大学院のころは、ジャズばかり聴いていた時代があった。当時はスイングジャーナルを毎月買っては読んでいたり、買うアルバム(CDではなくLP)もジャズ・フュージョンものが多かったことを覚えている。

 大学院を修了して、私は電機メーカーに就職し、京都近郊の工場に配属になった。入社1年目は寮住まいだったので、学生のころ持っていた中古のエレクトーンも手放し、音楽ができない欲求不満があった。ある日雑誌で京都に「ブルーノート」というライブハウスがあるのを見つけ、思い立って出かけてみた。確か暑い8月の週末だったと思う。

 当時木屋町にあったそのライブハウスは、思いのほかこじんまりとしていた。行った時間が早かったせいもあり、客はまだ私しかいない。細長い店内の奥でカルテットがジャズ演奏をしている。私はカウンターの端に座り、飲めないくせにバーボンの水割りを注文した。

 曲が2,3曲終わっても客が私しかいなかったせいか、バンドの人が「何かリクエストありますか?」と聞いてきた。私は好きだったコルトレーンのNAIMAをリクエストした。この曲はコルトレーンにしては珍しい、メロディの美しいシンプルなバラード曲だ。意外にリクエストはすんなり通り、演奏が始まった。なかなか落ち着いた、いいアレンジの演奏だった。演奏が終わった後「NAIMAはナイマではなく、ネイーマって発音するんですよ」とバンドの人が教えてくれた。

 それから20年以上が過ぎ、私はLA近郊のトーランスのホテルにいた。前日の東海岸での打ち合わせ後LAに移動し、当日は朝からトーランスである企業と打ち合わせである。仕事は無事終わったが、連日の強行軍で部屋に帰ると一気に疲れが出て、最初は会社のメールチェックをしていたものの、いつの間にかベッドで横になっていた。気がついたら夜の8時を回っていた。

 その夜は一人だったので、一階のレストランでスープとパスタの簡単な食事をとる。レストランはすいていて、客が数組いるだけだった。ちょうどその時間はレストランでジャズの生演奏をやっている時間で、ピアノ、ウッドベース、ドラムのトリオに時々フリューゲルホーンが参加する、少し珍しい編成だった。

 何曲かスイング感のある演奏の後、ハービー・ハンコックのピアノに似たアレンジの曲が始まった。どこかで聞いたことのあるそのメロディラインをたどっていくと、NAIMAだった。その瞬間、自分の中でばらばらになっていた音楽の記憶が1本の糸のようにつながり、京都のブルーノートまでたどり着いた。私はしばらくの間、その美しい演奏と記憶の余韻を楽しんだ。演奏の後、ピアニストが”John Cortrane’s famous song, NAIMA.”と紹介した。もちろん、「ネイーマ」というきちんとした発音で。

2007年 記
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