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鳥海病院の思い出 [エッセイ]

追浜駅の改札を出て左に折れ、階段を降りて16号の横断歩道を渡り、右に歩いて程ない場所に、その病院はあった。昔の木造の校舎のような、戦前からあるのではと思わせるくらい、古い建屋は外観も内装も趣があった。入口を入ると、暗い色の廊下を挟んで向かいに、受付と会計を兼ねた窓口がある。入って右手の廊下には長椅子が置いてあり、そこが待合室代わりになっている。その廊下の突き当りに扉があり、その奥が診察室だった。廊下は診察室の扉の前で左に折れ、しばらく行った所にお手洗いがあった。確か汲み取り式の古いものだったと思う。

1990年代に追浜近辺に住んでいた頃は、かかりつけの病院と言っていいくらい、家内共々、頻繁にお世話になった。99年の冬に熱が出て腹痛がひどくなり、鳥海病院で見てもらうと、盲腸になりかけかもしれないと言われ、点滴を受けたことがある。診察室を出て案内された部屋は、廊下より一段上がった板張りの部屋で、その床に布団が敷かれていた。横には昔の小学校にあったようなストーブが置いてあった。その布団の中でしばらく点滴を受けた。夏目漱石の「行人」の冒頭に出てくる、大阪の病院はこんな雰囲気だったろうか、そんなことを考えたりした。幸い盲腸はひどくならず、その後回復した。

当時の院長先生は、見た目60〜70代位の、年代の割には背が高く、精悍な感じの人だった。少しべらんめえ調の喋りには、診てもらう人を安心させるような何かがあった。今もご存命であれば80〜90代の相当なお年のはずだが、お元気かどうか知る由もない。先日、家内が用事で追浜に行った時に病院のあった場所を見ると、入口の門の痕跡だけ残っており、そこから奥は完全に取り壊されていたそうだ。時代の流れ、地域再生のプロセス、と言ってしまえばそれまでだが、一抹の寂しさを禁じ得ない。
20230615 鳥海病院.JPG
写真は2005年6月に撮影したものだ。過去にお世話になったことに感謝と哀惜の意を込めて、本文を捧げたい。
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